各種データを活用した先進的教育モデルを研究|村立道志中学校・杉本校長
村で唯一の中学校である道志中学校は全校生徒28名の小さな学校ですが、令和3年度より山梨県教育委員会の「先進的教育活動モデル事業」、現在は「令和のやまなし教育モデル事業」の研究協力校となっています。研究では早稲田大学河村茂雄教授の協力の下、「WEBQU」※という学級経営アセスメントツールから個々の生徒の意欲・満足度などデータを測定して、教育指導、学習に活かしています。この研究はスタートから3年が経ち、その成果を道志中学校の杉本校長に伺いました。 ※「WEBQU」とは、教員が児童生徒の状態を多角的に知ることができる信頼性と妥当性の高い検査。いじめ、不登校、やる気、ソーシャルスキル、部活動、アクティブラーニング、学習意欲の項目で、個人とクラスの状態を可視化して表示される。Questionnaire-Utilities(楽しい学校生活を送るためのアンケート)の略
先生の「やりたい指導」ではなく、組織で「根拠を持った指導」を行う
「令和のやまなし教育モデル事業」における道志村中学校の研究主題方法は「WEBQUを活用し、学級の安定と活性化を図る」としています。教育のデジタル化といえば、一人一台パソコンやタブレットの導入、インターネットを介した学習支援ツールの活用といった教育ツールのデジタル化が学校では先んじて進んでいますが道志中学校ではそれだけに留まらず、教育データの活用を積極的に取り組んでいます。その理由は「生徒に寄り添う、問題の早期発見、組織対応」の3つだと杉本校長と答えます。 道志中学校では学期ごとに「WEBQU」という学級生活に関わる標準化されたアンケート調査を年に3回実施し、即座にデータの集積と分析を行っています。分析結果の活用について杉本校長に伺うと「分析からどのクラス、どの子供に対して、どういう指導がなぜ必要なのか?という根拠を導き出します。その根拠をもって各生徒に寄り添い、その時の実態に応じた指導をすることができます。」さらに「学級経営は担任任せで先生のやりたい指導に陥りがちです。そのうえ、指導者による成果の差が出ます。しかし、データを用いることで生徒個人や集団での状況が視覚化でき、優先順位を決め、適切な対応方法と対応者を明確にしながら組織で教育指導ができます」と答え、データ活用による、教職員のチーム指導によって大きな成果があるといいます。「取得したデータから事実を元にどのような指導が良いのか?複数の目で見てみんなで話し合うことができます。事実を元に対応方法の議論ができるので若い教職員も含め職員の主体性が向上し、さらに指導過程の支え合いや学び合いで同僚性も向上しています。」とデータの活用は生徒に対する教育指導だけでなく教職員のチームプレー連携にも大きく影響を与えているようです。
データを見ながら共に学習計画を考え、生徒の主体性を育む
次に文科省が掲げている「個別最適な学び」についても聞いてみると、杉本校長は「道志中学では教科・単元ごとに援助レベルを3段階に分け、各生徒に応じた指導で学習目標を達成する環境づくりを行っています。」と答え、その理由については「学習の初めに生徒とデータを見ながら面談をし、援助レベルを元に学習目標を自己決定します。その目標に向けそれぞれの生徒が自ら学習計画を立て、友達との協働学習やどのタイミングで先生から支援を受けるかを決めます。」と生徒の主体的な学習と目標を達成するための自己調整を育んでいます。また学習計画の終了時には、「点数だけで評価するのではなく、どこまで達成できているかを評価し、もしできていなければ、なぜできなかったか?を生徒とともに考えます。」と点数から他の生徒と比較するのではなく、学習データとともにこれまでの学習を振り返った上で、次のステップへと進みます。このようなプロセスを経ることで保護者に対しても評価とその理由が説明できるので、学習に対して保護者の理解や協力も得やすくなります。
道志村から教育モデルの構築で社会へ貢献
このような「個別最適な学び」の取り組みは、小規模校だからできることなのでしょうか?と尋ねると「もちろん小規模校というアドバンテージはあると思います。しかし、令和のやまなし教育モデルの研究校としてWEBQUをはじめとしたデータを活用した教育モデルの確立ができれば、他校にも展開が図れます。」と杉本校長は早稲田大学河村教授や教育関係大学教授達とともに論文を発表し、シンポジウムに参加するなど積極的に活動をしています。「小規模校だからと思われることが多いが、山梨県の防犯弁論大会の優勝や『社会を明るくする運動』山梨県作文コンテストでも最優秀賞を頂くなど数々の大会の上位に入り、小規模校なのに結果を残しています。」と、その背景には「スポーツの成績を引き上げるのは難しいかもしれないが、学習モデルによって個々の生徒の学習能力は引き上げることができるといえます。」と杉本校長は笑顔でいいます。小さな村で始まった教育モデルの研究は日本の教育に貢献をする大きな可能性を秘めており、学校の規模に関係なく他校も取り組める教育モデルにしていくことが今後の課題です。
3月に退職を迎えるにあたり
「生徒、先生、保護者、行政のみなさんに感謝の一言です」という杉本校長は、この春、長年にわたる教職員人生を終えます。「山梨県の『令和のやまなし教育活動モデル事業』の研究協力校となり、生徒たちがよく理解し、成長してくれた」と研究校としての成果に生徒への感謝は尽きません。また、道志中学校は小中一体型の全国でも珍しい学校であるが、「地域と共に保育所が頑張って、そして小学校も頑張って子供たちを育ててきてくれた。だから中学校の成果は中学校のものだけではないんです。」と杉本校長ははっきり言います。地域の支援といえば、道志中学校が2023年度に文部科学大臣表彰を受賞するほど、日ごろのPTA活動が評価を受けています。最後に杉本校長はいいます。「村で一つしかない中学校。その中学校の教育がダメだと村の教育もダメといわれる。そんな状況の中、創ってきた教育モデルをぜひ、教育に関わる方に知ってもらいたい。」とこれまでの教職の人生の集大成が今の道志中学校にあると感じられました。