道志村で夢の本屋を開業する|もくめ書店・店主酒井七海
2022年に移住しその年に道志村で「もくめ書店」を開業した酒井七海さん。本が好きでいつか自分の本屋を開きたいという夢を持ち、移住をきっかけに村の創業支援補助金制度を利用して夢を叶え「もくめ書店」をオープンしました。夢をか叶えるにあたり、酒井さんが本屋のない道志村でどんな思いで開業したのか、インタビューをしました。
移住の発端は小さな別荘との運命的な出会い
――—小さな村で本屋を開業するに、まず、道志村への移住のきっかけは何でしょうか?
住むに古いが、かわいらしい小さな別荘に出会ったことがきっかけです。夫の母が田舎暮らしをしたいからと道志村へ移住し、その縁から子ども達と一緒に遊びに行くようになりました。道志村の新鮮な空気、水の美味しさにはシンプルに体が喜ぶということを発見し、四季折々の自然の美しさをずっとそばで感じられることはなんて贅沢な豊かさなんだろうと、この村に義母と同様に徐々に魅了されていきました。
ちょこちょこと遊びに行くうちに義母の家の隣の家が売りに出されたのを知り、それは普通なら知る由もない小さな村の小さな別荘でした。住むには古く、目の前の道路は狭く、さらに夜は街灯もなく真っ暗、そしてとにかく寒い、しかし、それらにまして美しい景色と目の前を流れる小川のせせらぎに魅了されたわたし達家族はその別荘に運命を感じ買うことにしたのです。
義母の後押しが夢の本屋の開業につながりました
――—その別荘は、最初は本屋を開くために買ったわけではなさそうですね?
そうです、その別荘にはわたし達家族が住むつもりでしたが、移住計画を立てているうちにわたしはどうしてもこの道志村で自分の夢を叶えたくなったんです。それは小さくてもいい、本屋を開くことです。
本が好きで移住前は本屋さんで働いていました。本屋の仕事は想像していた以上にはるかに大変で苦労の多いものでした。しかし、大変以上に仕事が面白いと思えることが多かったんです。そんなこんなで自然と自分でもいつか本屋をやってみたいと思うようになっていました。
――—またどうして人口1500人程の村で本屋を開こうと決心したんですか?もっと人口の多い街の方がお客さんも多く、経営的にも良いと思いますが。
本が好きで純粋にたくさんの人たちに本を届けたいというのが基本にあります。しかし、本屋のない道志村の子供たちを思うと、この小さな村で本屋を開きたいと思うようになったんです。ちょこちょこと通い、道志村の人たち交流していくうちに、通常なら近所にある本屋がここにはない、その存在すら子供たちは知らないんだと思うと猛烈にさびしくなり、ここで本屋をやりたいという思いが強くなりました。
そこで「道志村で本屋をやりたいからもう一つ店舗になる物件を借りたい」という唐突な話を家族にしたところ、義母が「だったら購入した家を本屋にしてみんなでわたしの家に住めばいいじゃない」と提案があり、夫もこれに同意してくれたんです。嫁の夢を叶えるためにましてお金になるような事業でもないのに反対することもなく、いちもにもなく同意してくれたんです。正直いうと新しく店舗を借りるお金の余裕はなかったので、本当に助かる義母からの申し出でした。
道志村で本屋を開いて良かった
――—道志村で本屋を開業して2年が経ちますが、開業当初を振り返るといかがですか?
当初はこの小さな書店にお客さんが来てくれるのか?不安でしょうがなかったです。でもそんな不安はすぐに解消されました。この村に根付くために、子供たちを対象とした「読み聞かせ会」や道志村の文化の行きかう場所として「音楽会」をはじめ様々なイベントを毎月開催し、足を運ぶきっかけづくりに励んできました。その結果といっていいのかな?今では道志村の多くの人に「もくめ書店」を知ってもらえ、そして村外からも「もくめ書店」を目当てに来てくれるリピーターも増えたことには驚きと共に感謝でいっぱいです。たくさんの方々から「ここに本屋を作ってくれてありがとうね」という言葉をかけてもらい、本当に幸せなことで、道志村で本屋を開いて良かったと思っています。
――—そういえば、もくめ書店の名前の由来はなんですか?
木の木目が木々の多い道志村と調和がとれ、木目の模様は本の小口にも似ていることから「もくめ書店」としました。ひらがなにしたのは子供から大人まで愛着をもってもらえたらなという願いからでもあります。
移住が夢でなく、その先に何をしたいのか?
―――移住の夢を持っている方は多いと思いますが、そんな方たちへ移住で夢を叶えた酒井さんから伝えたいことはありますか?
自分の経験から伝えたいことは、移住を決める前でも後でも、その場所で何をしたいのかということは少しでも考えることをおススメします。移住が夢ではなくその先に何がしたいのか?働くことばかりじゃなく “とにかくのんびりする” とかでもいいと思います。そうするとのんびりするためにはどんなふうに暮らす場所を整えていくか、やはり目的があるとそのためにしたいことが見えてくると思います。そうすると移住生活がグッと真実味を帯びて夢の実現への一歩を歩める気がするんですよね。
道志村の移住者もそれぞれみんなやりたいことをやっている人たちが多く、一緒にすごしていると勉強になることが多いです。畑をやりたい人、養蜂をやりたい人、林業をやりたい人、飲食店をやりたい人、みんなそれぞれ目的を持って、日々楽しみながらそこに向かって活動しています。そんなふうに自分の中にひとつこれがやりたいというものがあれば、たとえ新しい場所で何かにつまずいてもただでは転ばないと思います。不安も多いかもしれないけれど、楽しいことも多いはず。よかったら一緒に道志村で移住生活を楽しみましょう!笑